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北斎さんの富士山 〜復刻版で見る「富嶽三十六景」〜 (23)【PR】
連載「北斎さんの富士山 〜復刻版で巡る「富嶽三十六景」〜」は、アダチ版画研究所が制作した復刻版で、北斎の「富嶽三十六景」全46図を毎週2図ずつご紹介する企画です。前回の記事はこちら≫
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作品No.67 「上総ノ海路」
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緩やかに弧を描く水平線。北斎は、地球が球体であること、この世界が海でつながっていることを、知っていたのでしょうか? 大海原へ乗り出す船は、のちにその名を世界に轟かせることになる北斎の未来を予見しているかのようです。
■ カクダイ北斎
船の帆が風を受けて、綱がピーンと張っています。その真っ直ぐな綱のラインに並行する富士山の稜線。広大な風景の中に、小さな富士山の姿をしっかりと意識させる、北斎の巧妙なテクニックです。
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■ ふじさんぽ
江戸時代、房総半島は、下総(北部)・上総(中部)・安房(南部)の三つの国に分かれていました。作品名に上総の海路とありますが、富士山が見えているので、おそらくこの海は東京湾で、船は、現在の木更津市や富津市の港を出たものでしょう。北斎は生涯に何度か房総半島を訪れていて、航路を利用した可能性もあるそうです。北斎が見た海景に想いを馳せて、今回のふじさんぽスポットは、富津岬にある「明治百年記念展望塔」に。晴れた日には富士山が見える場所です。
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作品No.60 「諸人登山」
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「富嶽三十六景」刊行の背景には、当時の富士山信仰がありました。36図刊行後に追加された10図のうちの一図である本作には、富士講の様子が描かれています。人々は講と呼ばれるグループを組んで富士山に登りました。そう、ここは富士山の上。
■ カクダイ北斎
穴のような場所に人々が集まりうずくまっています。富士の登山道にはこうした石室がいくつかあり、人々はここで休息をとっていたようです。みんなでなにか祈りを捧げているようにも見えますね。
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■ ふじさんぽ
「富嶽三十六景」全46図のうち、作品名に地名が記されていない図が3図あります。赤富士の通称で知られる「凱風快晴」、その赤富士と構図が似た「山下白雨」、そして今回の「諸人登山」です。前者二つが画面いっぱいに迫る富士山の姿を描いているのに対し、「諸人登山」は富士山中を描いています。眺める対象として描き続けた富士山を、北斎はこの作品によって登る対象として描いたのです。というわけで、連載最後のふじさんぽスポットは、やはりこちら「富士山」です。
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editor's note:連載23回にわたり、北斎の「富嶽三十六景」全46図をご紹介してきました。北斎の代表作であるこのシリーズが、実際どのような順番で描かれ、どのようなスケジュールで刊行されたのか、またどの程度の売上を記録したのか、正確な数字はわかっていません。ただし打ち切りも日常茶飯であった浮世絵の揃い物に於いて、シリーズタイトルの36を超える作品数を数年がかりで刊行したという事実は、当時の北斎の揺るぎない人気を物語っています。江戸の人々は、毎回わくわくしながら北斎の新作の発売を待ちわびていたことでしょう。そんな当時の人々の期待を追体験できればと、連載という形式で作品をご紹介してきました。全46図揃うと、改めて壮観です。5ヶ月のあいだ、お付き合いいただき誠にありがとうございました。
※ 葛飾北斎の「葛」の字は環境により表示が異なります。また「富嶽三十六景」の「富」は作中では「冨」が用いられていますが、本稿では常用漢字を採用しています。
文・「北斎今昔」編集部
提供・アダチ版画研究所
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