北斎さんの富士山 〜復刻版で見る「富嶽三十六景」〜 (18)【PR】
連載「北斎さんの富士山 〜復刻版で巡る「富嶽三十六景」〜」は、アダチ版画研究所が制作した復刻版で、北斎の「富嶽三十六景」全46図を毎週2図ずつご紹介する企画です。前回の記事はこちら≫
作品No.41 「甲州石班沢」
藍色のぼかし(グラデーション)を幾度も摺り重ねて表現した、神秘的な霊峰の姿と富士川の流れ。「富嶽三十六景」の中でも人気の高い、クールでモダンな藍摺絵の傑作です。
■ カクダイ北斎
もはや抽象画に近い富士山の姿。シンプルな線と山頂の藍のぼかしだけで、朝靄の彼方にそびえる日本一の山の高さを見事に表現しています。
■ ふじさんぽ
画中の表記は「石班澤」となっていますが、おそらく本来は「石斑澤」で「かじかざわ」。鰍沢(かじかざわ)は、かつて甲斐の国(現在の山梨県)と駿河の国(現在の静岡県)を結ぶ富士川水運の拠点でした。本図の場所は特定されていませんが、富士山が見え、激しい川の流れの様子から、釜無川と笛吹川の合流点に近い「禹之瀬」ではないかという説があります。今回はこの「禹之瀬」をふじさんぽスポットとさせていただきました。
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作品No.18 「武州玉川」
富士山以外に、取り立ててランドマークもない鄙(ひな)びた風景に心が鎮まります。観光地の説明的要素の強い「名所絵」から脱却し、浮世絵に「風景画」という新たなジャンルを確立させた北斎の功績を実感する一枚です。
■ カクダイ北斎
波立つ川面の表現にご注目。手前の岸に近い部分の波の模様は、あえて絵具をつけずに摺ることで、和紙の表面に凹凸を生み出しています。この「空摺(からずり)」と藍色のぼかし(グラデーション)とで、透明度の高い水流の様子を表現しているんですね。
■ ふじさんぽ
「玉川」は現在の東京都と神奈川県の間を流れる多摩川のこと。本図が138kmに渡る多摩川のどこを描いているのかは定かではありませんが、川幅や流れの様子から中流域ではないかと思われます。歌枕の六玉川では「調布の玉川」が知られているため、今回のふじさんぽスポットは、調布市の京王多摩川駅からすぐにある「多摩川児童公園」とさせていただきました。例年開催される花火大会の会場です。
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editor's note:前回の記事で、北斎の「富嶽三十六景」は当初「藍摺絵」のシリーズとして刊行が予定されていたことを書きました。しかし実際のところ全46図の中で「藍摺絵」と呼べる色合いのものは全体の三分の一にも満たないのです。おそらく途中で路線変更したものと思われ、その転換点にあったのが「甲州石班沢」だったと考えられています。この図は増刷を重ねる過程で、後の摺では、藍以外の黄や茶、緑といった色を使用しカラフルになっていきます。現在では、この藍のモノトーンが高く評価されていますが、当時の人々にはちょっと寂しく感じられたのでしょうか。
※ 葛飾北斎の「葛」の字は環境により表示が異なります。また「富嶽三十六景」の「富」は作中では「冨」が用いられていますが、本稿では常用漢字を採用しています。
文・「北斎今昔」編集部
提供・アダチ版画研究所
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