北斎さんの富士山 〜復刻版で巡る「富嶽三十六景」〜 (3)【PR】
連載「北斎さんの富士山 〜復刻版で巡る「富嶽三十六景」〜」は、アダチ版画研究所が制作した復刻版で、北斎の「富嶽三十六景」全46図を毎週2図ずつご紹介する企画です。前回の記事はこちら≫
作品No.31 「駿州江尻」
突風に舞う懐紙、しなる高木、蛇行する街道、振り向き、あるいはかがみ込む人々。いくつもの曲線や折れ線が画面を交錯するなか、なだらかな稜線を描く遠景の真っ白な富士山が印象的です。渋みのあるモノトーンの色彩が、画面を一層ドラマティックに見せています。
■ カクダイ北斎
森羅万象あらゆるものを描いた北斎。水や風といった、形のないものや目に見えないものを表現することにも、生涯挑戦し続けました。笠をかぶった人物の、身の強張り、足の踏ん張り。一瞬の仕草の中に、草原を吹き抜けた突風が見事に表現されています。
■ ふじさんぽ
東海道の宿場で、日本橋から数えて18番目の駅である江尻。現在の静岡県静岡市清水区です。清水には、国の名勝として指定されている三保の松原もあり、また江戸時代、江尻宿の近くには細井の松原という景勝地もありました。風景画の題材には事欠かない海辺の町なのに、北斎が描いた江尻は、ものさびしい草原。いったいなぜなのでしょう? 今回のふじさんぽスポットは、江尻宿本陣の西に架かる「稚児橋」にさせていただきました。カッパ伝説のある橋なんだそうですよ。
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作品No.23 「相州仲原」
さまざまな出立ちの人々が行き交う道。地域住民の日常と、旅人の非日常が入り混じります。登場人物ひとりひとりの人生の物語に想像が膨らみますね。全体に情報量の多い作品ですが、空と河川の部分に用いられた上下方向からの青のグラデーションが、和紙の肌地と相まって画面を穏やかにまとめています。
■ カクダイ北斎
近景に細かな描きこみが見られる一方、遠景はやや抽象的に描かれています。日本の古典絵画に見られる「すやり霞」(画面横方向にたなびいている雲のような表現)の手法を用いて、富士山の長い裾野を画面の中に違和感なく収めてしまう北斎。悠然たる山の姿、じっくりとご覧ください。
■ ふじさんぽ
「駿州江尻」に続き、「相州仲原」も北斎は「なぜ?」という場所を描いています。仲原は、現在の神奈川県平塚市。名所絵であれば、ここから少し北西に行った大山に参詣する人々の様子を描くのが定石でしょうが、北斎は画面の真ん中に、大山への道標の背面を描くのみ。具体的にここが中原のどの辺りかもよくわかりません。そこで今回のふじさんぽのスポットは、かつて徳川家康が鷹狩などの際に逗留していたという「中原御殿」とさせていただきました。(4代家綱の時代に引き払われ、北斎の時代にはすでに御殿はありませんでした。)現在は平塚市立中原小学校が建っています。
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editor's note:東京でも、だいぶ風が冷たく感じられるようになってきました。北斎の風景画は、同時代に活躍した広重に比べると、あまり季節感がありません。それがかえって、日本の四季に依拠した広重作品よりも、ボーダレスな評価を獲得することになったのではないでしょうか。今回は、そうした北斎の作品の中から「これは秋の風景なのかな?」という作品2図を選んでみました。
※ 葛飾北斎の「葛」の字は環境により表示が異なります。また「富嶽三十六景」の「富」は作中では「冨」が用いられていますが、本稿では常用漢字を採用しています。
文・「北斎今昔」編集部
提供・アダチ版画研究所
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