国芳の親父ギャグ炸裂! お猫様の東海道「猫飼好五十三疋」〜後編〜
浮世絵界きっての愛猫家として知られる絵師・歌川国芳。東海道の宿場を猫のダジャレで表現した「其まま地口 猫飼好五十三疋(みゃうかいこうごじゅうさんびき)」をご紹介。同世代の絵師・歌川広重の「東海道五拾三次(保永堂版)」と合わせて、猫の東海道の旅をお楽しみください。後編は見附からスタートです。(前編はこちらから)
29. 見附
座布団の上に丸まり、ぐっすり眠るトラちゃん。ネツキ→ミツケ→見附……うーん、べらんめえの国芳の「見附」の発音は「ミツキ」に近かったのかも。
30. 濱松(浜松)
目を白黒させているブチちゃん。足元にある謎の物体(ハマグリ? ホタテ?)からは湯気のようなものが出てますね。匂いをかごうとして鼻を熱気にやられたのでしょうか。ハナアツ→ハママツ→浜松。
31. 舞坂
子猫を抱く母猫。ダイタカ→マイサカ→舞坂。ごろんとした寝姿にキュンとしちゃいますね。
32. 荒井
猫が顔を洗うと雨になると言います。前足を耳の後ろから持ってくるあの仕草、国芳はとても上手に描写しています。アライ→荒井。
33. 白須賀
どっしり構えるブチ猫母さんに、子猫たちがじゃれついています。ジャラスカ→シラスカ→白須賀。母猫の尻尾に飛びつく子猫の姿がかわいい〜〜。
34. 二川
子猫たちに餌を持ってきた賢そうな顔の母猫。どうすれば平等に分配できるか思案しているのかもしれません。アテガウ→フタガワ→二川。……これはさすがに苦しい語呂合わせでは……。
35. 吉田
ふああああと大きく伸びをする猫ちゃん。オキタ→ヨシダ→吉田。隣の見附(ネツキ)と対になっているのかもしれません。
36. 御油
黒猫と茶白猫がじっと見合って一触即発!? 茶白猫が左前足を出して挑発しています。コイ→ゴユ→御油。ちなみに江戸時代、尻尾の短い猫のことを御湯猫と呼びました。これは東海道の御油と赤阪の間の距離が短かったことに由来するのだとか。
37. 赤阪
ブチちゃんがかじりついているのは、串刺しにした魚の頭のようです。節分に飾る魔除けの柊鰯にも見えます。アタマカ→アカサカ→赤阪。
38. 藤川
ブチ猫がかごに入っています。これはもう、そのままですね。ブチカゴ→フジカワ→藤川。
39. 岡崎
またしても登場、尾っぽが二股になった猫又くん。尾っぽが裂けているので、オガサケ→オカザキ→岡崎。ちなみに岡崎と言えば、化け猫伝説が有名。歌舞伎の演目などにもなっています。国芳も岡崎の化け猫伝説の舞台を数多く描いています。
40. 池鯉鮒(知立)
涼やかな目元でキリッとたたずむ美猫。なんて器量良し。キリョウ→チリュウ→知立。
41. 鳴海
先ほどブチちゃんがすっぽりおさまっていたかご。こちらの猫ちゃんは軽い身のこなしで抜け出しています。カルミ→ナルミ→鳴海。
42. 宮
仲睦まじく体を寄せ合い眠る親子の猫。オヤ→ミヤ→宮。苦し紛れの地口ですが、かわいいので許しましょう。
43. 桑名
江戸時代、猫の餌やりの容器に用いられたのがアワビの貝殻でした。しかし猫がアワビを食べると耳が落ちるという俗説があります。実際、貝類に含まれる成分が皮膚炎を引き起こし、耳が荒れてしまう可能性はあるのだとか。猫はアワビの身を食べてはいけません。クウナ→クワナ→桑名。
44. 四日市
101匹わんちゃんに負けじとブチ猫ちゃんズが大集合。一ヶ所に寄り集まって、ヨッタブチ→ヨッカイチ→四日市。
45. 石薬師
緊張感漂う御油の二匹に対して、こちらの二匹は甘い猫パンチを繰り出してイチャイチャモード。イチャァツキ→イシヤクシ→石薬師。
46. 庄野
赤い首輪に鈴をつけたお上品な茶白ちゃん。誰かに語りかけるように鳴いています。きっとおねだり上手の飼い猫です。カウノ→ショウノ→庄野。
47. 亀山
鋭い目つきのブチちゃん。元ネタは、歌舞伎などに登場する妖怪(天邪鬼?)の類でしょうか。あるいは豹変する女性を揶揄しているのでしょうか。手ぬぐいは、正体(本性)を表すシーンの小道具の模様。バケアマ→カメヤマ→亀山。
48. 関
先ほどアワビは食べてはいけないと申しましたが、カキは大丈夫。猫のおやつにも牡蠣味があるくらいです。カキ→セキ→関。タウリンたっぷりで尾っぽもピン!
49. 坂之下
前足を舐める猫ちゃん。ぺろっと出した舌が赤い、ということでしょうか。アカノシタ→サカノシタ→坂之下。
50. 土山
二匹の猫ちゃんがお鼻をクンクン。どうやらいい感じです。が、隣には邪魔に入ろうと様子をうかがうハチワレブチちゃんが。ブチジャマ→ツチヤマ→土山。
51. 水口
全身に模様が入った体格の良いブチちゃん。なんだか牛みたいですね。総ブチ、という意味でしょうか、ミナブチ→ミナグチ→水口。
52. 石部
これは見ていて辛くなる。骨が浮き出てガリガリの猫ちゃん。病気か、十分に食事を摂れていないのでしょうか。ミジメ→イシベ→石部。
53. 草津
猫はこたつで丸くなる♪ まさに歌のまんまの猫ちゃんです。江戸時代のこたつは現代のような天板がないので、こんな風に上に乗っかって暖を取る猫ちゃんも多かったのでは。コタツ→クサツ→草津。
54. 大津
上を見上げてご機嫌な顔の猫ちゃん。視線の先には、猫の存在に全く気づいていない様子のネズミ。前編の藤枝のブチちゃんは「ヘタ」と言われていましたが、こちらは狩りがお上手なようです。ジョウズ→オオツ→大津。
55. 京師(京)
親父ギャグ55連発の旅もようやく終わりです。最後はネズミを仕留めて大団円。猫の鳴き声で締めくくりましょう。ギャウ→キョウ→京。皆さま、お付き合いありがとうございました〜。
後編もかなり無理があってツッコミどころ満載の地口がたくさんありましたが、お楽しみいただけましたでしょうか。こんなお茶目な木版画を大の大人が本気で作って売っていた、そしてそれを庶民が買い求めていたとは、なんとも大らかな時代です。もちろん実際には、苦しいことも辛いことも理不尽なこともあったはずですが、それを笑いで乗り越えていった江戸の人々のエネルギーに、私たちも大いに学び、励まされたいと思います。
文・「北斎今昔」編集部
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