総集編:北斎さんの富士山 〜復刻版で見る「富嶽三十六景」〜【PR】

総集編:北斎さんの富士山 〜復刻版で見る「富嶽三十六景」〜【PR】

2020年10月30日から2021年4月2日まで、全23回にわたり連載した「北斎さんの富士山 〜復刻版で巡る「富嶽三十六景」〜」は、アダチ版画研究所が制作した復刻版浮世絵で、北斎の「富嶽三十六景」全46図を毎週2図ずつご紹介する企画でした。本記事は、その総集編。あらためて北斎の名作シリーズを眺めてみましょう。

あらためて「富嶽三十六景」って?

皆さんおそらくポスターや商品パッケージなど、どこかしらで目にしたことがあるはずのこちらの2図。いずれも江戸の浮世絵師・葛飾北斎が描いた作品です。


世界的にも知られる北斎の名作。「神奈川沖浪裏」と「凱風快晴」。(画像提供:アダチ伝統木版画技術保存財団)

両図とも画中の縦長の枠に「富嶽三十六景(ふがくさんじゅうろっけい)」と記されています。これは、浮世絵のシリーズ名。どちらも同じシリーズの中の作品なんです。1図目は「神奈川沖浪裏(かながわおきなみうら)」という題名で、2図目は「凱風快晴(がいふうかいせい)」という題名。「三十六景」という名前ですが、好評を博して最終的に全46図のシリーズになりました。

ヒットの仕掛け 北斎×富士山×藍色

このシリーズが刊行されたのは天保時代(1830〜40年)の初め頃。数年かけて数図ずつ出版されたようです。人気がなければ打ち切りも当たり前だった浮世絵。(現代の漫画の雑誌連載と似ていますね!)数年がかりで46図も刊行できたということは、相当な人気だったということ。たしかに誰もが知る名作が揃っていますが、一体なぜそんなにヒットしたのでしょうか?

ブルーの濃淡だけで表現された「甲州石班沢」。神秘的な雰囲気です。(画像提供:アダチ伝統木版画技術保存財団)

まず描いたのは、当時、人気小説の挿絵などで注目されていた葛飾北斎(かつしかほくさい・1760-1849)。シリーズ全体のテーマは「富嶽」つまり「富士山」です。当時、人々のあいだには富士山に対する信仰があり、富士山詣でをするのが一種のブームになっていたのだとか。そしてこの頃、舶来の鮮やかな藍色の絵具(ベロ藍)が浮世絵版画に用いられるようになり、「富嶽三十六景」はこの絵具を積極的に用いました。要は話題のものが三拍子揃った浮世絵シリーズだったんです。

「富嶽三十六景」の一図「諸人登山」には、富士登山(参詣)をする富士講の人々の様子が描かれている。(画像提供:アダチ伝統木版画技術保存財団)

ふじさんぽマップで北斎の見た富士山を探そう

「富嶽三十六景」の各図の題名には、3図を除いて地名が入っています。ひと口に地名と言っても、広範な地域を指しているものもあり、北斎がどこから富士山を見ているのかを特定するのは難しいのですが(そして、必ずしもすべての場所に北斎自身が足を運んでいるわけではなさそうなのですが)、作品から北斎の足取りを想像するのは、とても楽しいです。

題名は「遠江山中」。遠江は現在の静岡県西部。でも、それだけではさすがにどこの山の中かまでは……。(画像提供:アダチ伝統木版画技術保存財団)

「北斎今昔」編集部では、北斎はこの辺りから富士山を眺めたのかも、という場所をGoogleマップ上にまとめて「ふじさんぽマップ」を作成しました。(※実際には富士山が見えない場所もあります。)皆さんのお住まいの地域に「ふじさんぽ」のスポットはあるでしょうか? Googleマップには、各スポットでさまざまな方が投稿された写真も閲覧できますので、アプリ上でヴァーチャル散歩するのもおすすめです。

なお、このマップはあくまで、北斎の気分を味わえそうな散歩を提案する、という観点からスポットを決めているので、北斎の視点をより正確に分析・検証したい方は、専門家が書かれた書籍等を参照いただければと思います。

拡大画像で、手にとりたくなるような木版画の質感までを

本連載で使用している浮世絵作品の画像は、すべてアダチ版画研究所(東京・新宿)の復刻版を使用しています。アダチ版画研究所は、江戸時代から続く伝統的な木版の技術を継承する職人(彫師・摺師)を擁し、浮世絵の復刻から現代のアーティストの版画制作までを行っている工房兼版元です。同社では、2006年に「富嶽三十六景」全46図の復刻を完了し、江戸時代当時の姿で蘇った北斎の名作は、多くのメディアでも紹介されました。

「東海道金谷ノ不二」の部分拡大。この川の流れを表す線やしぶきの点々、全部職人が手で彫っています!(画像提供:アダチ伝統木版画技術保存財団)

単に北斎の図柄を楽しむだけでなく、職人が一点一点手でつくっている木版画の質感を、より多くの方に知っていただければと、今回の連載では「カクダイ北斎」というコーナーを設け、作品の一部をクローズアップでご紹介しています。和紙の肌地のやわらかさ、刀の先から生み出された線のシャープさ、水性絵具の透明感、そういったものを感じ取っていただけるよう、スマートフォンで記事を閲覧した際に、原寸に近い状態(機種によって表示が異なるため、厳密ではありません)になるように画像のトリミングの比率を調整しています。

「武州玉川」の川面。和紙の表面に見える凹凸は、絵具をつけずに版木を摺ったもの。画像でご覧いただけるよう工夫しました。(画像提供:アダチ伝統木版画技術保存財団)

復刻版の一番の魅力は、やはり江戸時代の人々と同じように、世界の名画を手に取って楽しめること。アダチ版画研究所の社屋はショールームを併設していて、どなたでも気軽に復刻版をご覧いただくことができます。(現在、予約制となっています。)本連載で、浮世絵の復刻版や伝統木版の技術に興味を持たれた方は、ぜひ同社のショールームで、木版画の風合いに触れてみてください。制作に関する道具の展示なども行っています。また作品は、同社のオンラインストアでもお求めいただけます。

江戸時代の人々と同じように、浮世絵を手にとって楽しめるのが復刻版の魅力。アダチ版画研究所目白ショールームにて。(撮影:「北斎今昔」編集部)

「北斎さんの富士山」記事一覧

23回にわたって連載してきた「北斎さんの富士山」。記事一覧はこちらです。あなたはどの富士山がお好きですか?

「北斎さんの富士山」連載目次
第1回(2020.10.30)「本所立川」「駿州片倉茶園ノ不二」
第2回(2020.11.06)「遠江山中」「深川万年橋下」
第3回(2020.11.13)「駿州江尻」「相州仲原
第4回(2020.11.20)「神奈川沖浪裏」「穏田の水車」
第5回(2020.11.27)「下目黒」「青山圓座枩」
第6回(2020.12.04)「尾州不二見原」「従千住花街眺望ノ不二」
第7回(2020.12.11)「五百らかん寺さざゐどう」「登戸浦」
第8回(2020.12.18)「甲州犬目峠」「東海道吉田」
第9回(2020.12.25)「相州箱根湖水」「東海道程ケ谷」
第10回(2021.01.01)「凱風快晴」「江都駿河町三井見世略図」
第11回(2021.01.08)「駿州大野新田」「東海道江尻田子の浦略図」
第12回(2021.01.15)「東都駿臺」「隅田川関屋の里」 
第13回(2021.01.22)「信州諏訪湖」「甲州伊沢暁」
第14回(2021.01.29)「御厩川岸より両国橋夕陽見」「相州江の島」
第15回(2021.02.05)「相州梅沢庄」「甲州三坂水面」
第16回(2021.02.12)「江戸日本橋」「礫川雪ノ旦」   
第17回(2021.02.19)「相州七里濱」「武陽佃嶌」
第18回(2021.02.26)「甲州石班沢」「武州玉川」
第19回(2021.03.05)「山下白雨」「身延川裏不二」
第20回(2021.03.12)「東都浅草本願寺」「常州牛堀」
第21回(2021.03.19)「東海道金谷ノ不二」「武州千住」
第22回(2021.03.26)「東海道品川御殿山ノ不二」「甲州三嶌越」
第23回(2021.04.02)「上総ノ海路」「諸人登山」

※ 葛飾北斎の「葛」の字は環境により表示が異なります。また「富嶽三十六景」の「富」は作中では「冨」が用いられていますが、本稿では常用漢字を採用しています。

       

文・「北斎今昔」編集部
提供・アダチ版画研究所