北斎さんの富士山 〜復刻版で巡る「富嶽三十六景」〜 (6)【PR】
連載「北斎さんの富士山 〜復刻版で巡る「富嶽三十六景」〜」は、アダチ版画研究所が制作した復刻版で、北斎の「富嶽三十六景」全46図を毎週2図ずつご紹介する企画です。前回の記事はこちら≫
作品No.36 「尾州不二見原」
巨大な桶の輪を通して、遠くの富士山を眺めるという、北斎の斬新なアイディアが光る作品。通称「桶屋の富士」とも呼ばれています。なんとも潔い大胆な構図です。
■ カクダイ北斎
はるか彼方にちょこんと三角形の頭を出す富士山。前景の桶の輪が、まるでレンズのような役割を果たして、その存在をしっかりとフォーカスします。
■ ふじさんぽ
記録によれば、北斎は少なくとも2度名古屋を訪れ、半年ほど滞在もしています。「富嶽三十六景」の一図に名古屋を加えたのも、彼にとって思い出の地だったからなのでしょう。実際のところ、名古屋市内から富士山を見ることは不可能なのですが、地図を見ると「富士見」という名前がついた地名が二つ(中区の「富士見町」と千種区の「富士見台」)も。富士山とは、もはや物理的な距離を超越する存在なのかもしれません。では桶の発想はどこから? これは現在の伏見駅周辺にあった「桶屋町」から来ているのではないかという説があります。ということで、今回のスポットは名古屋の「伏見駅」。
▶︎ アダチ版復刻浮世絵 葛飾北斎「富嶽三十六景 尾州不二見原」の商品ページはこちら
作品No.15 「従千住花街眺望ノ不二」
稲刈りが終わった秋の田圃。遠くに、きれいなシンメトリーを描く白い富士山の姿が見えます。素朴な街道筋の風景を、侍たちが抱える鉄砲の袋の赤がリズミカルに彩っています。
■ カクダイ北斎
手前の行列は、おそらく江戸での勤めを終えて国許へ帰る参勤交代の武士たち。千住は、日本橋を出発して奥州・日光道中の最初の宿場。ここを通るということは、彼らが向かうのは東北地方か北関東。これから故郷の寒い冬が待っています。江戸での暮らし、なんだかちょっと名残惜しそう。
■ ふじさんぽ
千住宿は「江戸四宿」と呼ばれた江戸の北の玄関口。つまりは江戸の境界にある宿場です。こうした場所には、罪人を処刑する刑場も置かれました。それが小塚原刑場。南千住駅の南にある「延命寺」には刑死者を供養する延命地蔵が祀られています。『解体新書』の翻訳で知られる蘭学者の杉田玄白らは、この小塚原で刑死者の解剖(腑分け)に立ち合い、オランダの解剖学書の内容を確認したのだとか。
▶︎ アダチ版復刻浮世絵 葛飾北斎「富嶽三十六景 従千住花街眺望ノ不二」の商品ページはこちら
editor's note:12月になりました。いよいよ本格的な冬がやって来る。そんな感慨から、江戸の町を去り故郷で冬を迎える侍たちの作品を選びました。そして実は北斎ゆかりの地である名古屋から桶屋の一図。北斎と名古屋の関わりを物語る貴重な資料をはじめ、浮世絵を多数所蔵する名古屋市博物館は、伏見駅から地下鉄で20分ほどの桜山駅が最寄りです。浮世絵ファンもきっと楽しめる特別展「模様を着る」は12月6日まで。
※ 葛飾北斎の「葛」の字は環境により表示が異なります。また「富嶽三十六景」の「富」は作中では「冨」が用いられていますが、本稿では常用漢字を採用しています。
文・「北斎今昔」編集部
提供・アダチ版画研究所
- 記事をシェア:
- Tweet