国芳の親父ギャグ炸裂! お猫様の東海道「猫飼好五十三疋」〜前編〜
浮世絵界きっての愛猫家として知られる絵師・歌川国芳。日本橋から京都まで、東海道の宿駅の名前をもじった、猫の東海道を描いているのをご存知でしょうか? その名も「其まま地口 猫飼好五十三疋(みゃうかいこうごじゅうさんびき)」。「地口」とは語呂合わせのこと。国芳が50歳頃に描いた作品です。今日の我々には、あまりピンとこない洒落もいくつかあり、推測の域を出ないものもありますが、猫の日にちなみ、この国芳の親父ギャグ55連発を一つずつご紹介していきたいと思います。最後までぜひお付き合いください!(前後編でお届けします。)
なお、本来の東海道の宿場の雰囲気もご覧いただけるよう、今回は歌川広重の代表作「東海道五拾三次(保永堂版)」の画像を一緒に並べてご紹介します。猫が主役で、広重の絵がコマ絵のようになってしまって申し訳ないのですが……同じ歌川派(しかも国芳と同い年)ということで、今回は大目に見てもらいましょう!
01. 日本橋
かつおぶしにメロメロのブチちゃん。かつおぶしといえば、煮物や汁物のお出汁(だし)の素。二本のだし(の素)で、ニホンダシ→ニホンバシ→日本橋……うーん、初っ端からかなり苦しいダジャレです、国芳親方。
02. 品川
品の良い美猫のシロちゃん。お顔も雪のように白いです。シロガオ、シラガオ→シナガワ→品川。
03. 川崎
岡持(取手のついた桶)の匂いをくんくん嗅ぐ三毛ちゃん。どうやら中身は鰻の蒲焼きのようです。「和田」とあるので、鰻の名店、大和田さんか、和田平さんでしょうか。カバヤキ→カワサキ→川崎。
04. 神奈川
こちらも包みをくんくん嗅ぐ茶猫(?)さん。ガワ(外包装)を嗅いでいるから、カグガワ→カナガワ→神奈川? それともこれは、ひとつ前の岡持の中身の蒲焼きだから、カグカバ→カナガワ→神奈川? うーん、わかりません。
05. 保土ヶ谷(程ヶ谷)
ブチちゃんが喉をかいかい、ノドカイ→ホドガヤ→保土ヶ谷。そうそう猫って、こういう格好して歯をむき出してって、もはやこじつけみたいなダジャレじゃないですか……。
06. 戸塚
何かをじっと狙っているような様子の白ちゃん。その視線の先にいるのは、ねずみ。そう、ハツカネズミです。ハツカ→トツカ→戸塚。
07. 藤澤
青魚を食べて尾っぽまで青くなっちゃった(?)ブチちゃん。魚はサバのようです。ブチサバ→フジサワ→藤澤。ちなみに、猫の縞模様の呼称に「サバトラ(英:マッカレル・タビー)」がありますよね。ネコとサバの因縁は江戸時代から深い?
08. 平塚
お昼寝中の親子ネコ。寝る子は育つ。ソダツカ→ヒラツカ→平塚。いやいや、猫はあんまり関係ないような……。
09. 大磯
個性的な模様のブチちゃん。相当なよくばりなのか、自分よりも大きなタコを引きずっています。オモイゾ→オオイソ→大磯。まさか食べる気なのでしょうか。たしか、猫にタコはあげちゃいけなかったような……。
10. 小田原
走ってゆく茶猫。でもネズミは別の方向へ走っていきますよ? この追いかけっこ、どうやら徒労に終わった模様。あるいは、いたずらに追っかけ回していただけなのかもしれません。ムダドラ→オダワラ→小田原? 国芳の意図したニュアンスが掴みきれないのですが、「むだ」も「どら」も無益なものに対して用いる言葉ですね。
11. 箱根
猫が地面にお腹をくっつけ、前足を体の下に潜り込ませた座り方を「香箱座り」と呼びます。四角い透明な箱の中にすっぽり入っているような格好で、リラックスしたときの姿勢と言われています。すっかり安心して香箱座りのまま寝ている猫。ハコネ→箱根。まんまとネズミたちに餌を取られています。
12. 三島
手ぬぐいでほっかむりをして踊る猫。よく見ると、しっぽが二又に分かれています。つまりこの猫は妖怪、猫又(ねこまた)。三毛の猫又だから、ミケマ→ミシマ→三島。この手ぬぐいをかぶって踊る猫、国芳の他の作品にも登場します。
13. 沼津
白ちゃんが興味津々で見つめているのは、真っ黒い大きななまず。ナマズ→ヌマヅ→沼津。英語でナマズを"catfish"と呼ぶのを、国芳は知っていたんでしょうか??
14. 原
体格の良い、ボス猫風のサビ猫。シャーッと威嚇して、他の猫の獲物を狙っているようにも見えます。ドラ→ハラ→原。
15. 吉原
ブチちゃんがお腹をぺろぺろ毛づくろい。お腹にもぶち模様があるんですね。ブチハラ→ヨシワラ→吉原。それにしても国芳は猫の肢体をよく観察しています。
16. 蒲原
目の前のご馳走に、今にもよだれをたらしそうな顔のブチちゃん。大皿に並べられているのは美味しそうな天ぷらです。テンプラ→カンバラ→蒲原。
17. 由比(由井)
猫に小判、猫に鯛。こいつはなんとも、おめでたい! タイ→ユイ→由比! ちょっと無理があるような〜〜。
18. 興津(奥津)
国芳の愛らしい眠り猫。まったく起きる気配がありません。オキズ→オキツ→興津。
19. 江尻
大好物のかつおぶしにありつけたブチちゃん。思いっきりかじりついています。カジリ→エジリ→江尻。両目を見開き、かぶりつくこの表情!
20. 府中
何かにかぶりつくハチワレちゃん。猫まっしぐら、もう夢中です。ムチュウ→フチュウ→府中。ひとつ前(江尻)とネタが被っている、というツッコミはお控えください。
21. 鞠子
よく見ると「猫飼好五十三疋」の中に、本物の猫ではない猫が混じっていました。これは、張子の猫! 可愛いですね! ハリコ→マリコ→鞠子。
22. 岡部
主として馬などに用いますが、赤みを帯びた茶褐色の毛並みの動物を「赤毛」と呼びます。居眠りしているこちらの猫も赤毛です。アカゲ→オカベ→岡部。
23. 藤枝
獲物を狙っているような姿勢のブチちゃん。でも肝心のネズミたちは背後に回り込んで余裕の表情。完全になめられています。狩りは下手くそなようですね。ブチヘタ→フジエダ→藤枝。
24. 嶋田
目の前に置かれた二匹の魚に、まったく手を着ける様子のない猫。背中から漂うしょんぼり感。「生だ・・・」って、君、猫なのに生魚が嫌いなの!? (※猫に生魚はあまり与えない方が良いそうです。)ナマダ→シマダ→嶋田。
25. 金谷
毛並みの良いふくよかなブチ猫ちゃんは、きっと飼い猫なのでしょう。「たまや」と飼い主さんに呼ばれ、顔を上げた瞬間でしょうか。タマヤ→カナヤ→金谷。
26. 日坂
ぺろりと舌を出してご満悦の表情のお猫様。こいつ、隠れて何か食ったな〜? クッタカ→ニッサカ→日坂。にくたらしいけど、カワイイから許しちゃう……。
27. 掛川
怪物のような顔をした三毛猫さん。化け猫みたいな顔、ということでしょうか。バケガオ→カケガワ→掛川。語呂合わせとしては苦しいですが、この猫の顔には思わず笑ってしまいます。
28. 袋井
こちらは箱入り娘ならぬ、袋入り猫!? 袋のネズミではなく、袋の猫でしょうか?? フクロイ→袋井。猫って、なぜ新聞紙とか紙袋とか、カサカサ音がするものが好きなんでしょうね。
と、ここまでで東海道の約半分。まだまだ旅は続きます。国芳のアイディアと猫愛には脱帽ですね。もし「ここはこういう意味では?」という他の読み解き方があれば、ぜひ教えてください。後編はこちら。
国芳の親父ギャグ炸裂! お猫様の東海道「猫飼好五十三疋」〜後編〜
文・「北斎今昔」編集部
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