伝統文化の後継者問題、どう伝える? 目白大学メディア学部の学生が動画を制作!
浮世絵版画に代表される江戸時代以来の伝統的な木版の技術の保存・継承に努める木版画の工房、アダチ版画研究所。後継者問題と若い世代の職人たちの取り組みをより多くの人に知ってもらいたいと、メディア学部を擁する目白大学に相談を持ちかけました。2021年度の三上ゼミの動画制作プロジェクトについて取材しました。
伝統の技を受け継ぐ木版画工房からのSOS
アダチ版画研究所(東京都新宿区)は、江戸時代から続く伝統的な木版の技術で浮世絵の復刻や現代アーティストの版画制作を行なっている工房です。後継者不足が深刻化する中で、若い彫師・摺師の育成に努め、東京・目白のショールームでは伝統木版の技術を広く紹介する機会をつくっています。
しかし2020年以降のコロナ禍で、美術や日本文化に興味を持つ人々との接点は大幅に減少してしまいました。アダチ版画研究所では、人々の行動が制限されている中で、日本の伝統的な技術について知ってもらうために、動画を使った情報発信はできないだろうかと考えました。
そうして同社が相談したのは、ショールームの近隣にある目白大学でした。同大学のメディア学部メディア学科では、地域や企業と連携しながら、さまざまなメディアを使って社会の課題を解決する実践型の学習プログラム「mediaction」を導入しています。今回、アダチ版画研究所の相談に、同学科の三上義一教授のゼミ生たちが応答してくれました。三上ゼミではこれまでにフリーペーパーの発行、さらにウェブ上での展開を通じて、学科の広報や地域の活性化を図ってきています。
2021年春、三上ゼミの受講生が初めてアダチ版画研究所を訪れました。アダチ版画研究所のスタッフが、学生たちに伝統的な日本の木版技術の現状について概説し、その後ディスカッションを行いました。そして、どんな動画を制作したら良いか、各自が企画書を提出することになりました。
一週間後、提出された企画書に、三上教授、メディア学科の小林助教(※2022年8月を以て退職されました)、アダチ版画研究所の中山代表が目を通し、ゼミ生たちのアイディアをある程度集約し、撮影から動画の公開までのスケジュールを組み立てました。
さまざまな案がありましたが、今回はプロジェクトの目的や経緯を説明する動画と、若手職人へのインタビューを中心にした動画を数本制作することになりました。動画のトーン&マナーは、ニュース番組のローカルニュースコーナーのような、わかりやすさと親しみやすさをイメージ。動画サイトの統計を踏まえ、1本の動画を最初から最後まで見てもらうことを重視し、1本あたりの内容は3分程度に収めることとしました。
コロナ禍で学生生活を送る大学生たちが試行錯誤
本プロジェクトが立ち上がった2021年、依然として新型コロナウィルスの感染拡大は続いており、第4・5波の最中にあったため、撮影は3〜4名の少人数のグループに分かれて行うことになりました。日常的にスマホで動画を視聴し、SNSへの動画投稿などにも慣れているZ世代の学生たち。しかし第三者に取材し、チームを組んで撮影を行い、情報を整理し映像を編集する、ということは全員ほぼ初めてです。動画の撮影・編集の指導には、小林望先生が当たられました。
前年度は同級生とほとんど顔を合わせることのない学生生活を過ごした学生たちにとって、チームワークを要する課題は、とまどいも多かったと思います。それでも色んな工夫をしながら、各チーム真剣に動画制作に取り組んでいました。
そして年度の最後には「目白大学三上ゼミ×アダチ版画研究所」というタイトルの4本の動画が完成しました。動画には、#1〜#4の番号が振られ、4本すべてを通して視聴することで、伝統的な木版技術の継承について、より興味を持ってもらえるように工夫されています。
目白大学三上ゼミ×アダチ版画研究所
#1 イントロ・・・今回のプロジェクトのイントロに当たる動画。動画制作の目的や経緯を説明。
#2 若手職人・・・若手の摺師・彫師へのインタビュー。どうしてこの仕事に就こうと思ったのか等、同世代の素朴な疑問をぶつけています。
#3 道具について・・・職人の道具紹介。世界的にも評価されている日本の木版の高度な技術について、道具を基軸に紹介します。
#4 三上ゼミ生が浮世絵の彫りと摺りを体験・・・ゼミ生の一部が、アダチ版画研究所で版画制作を体験したときの動画を編集したもの。学生の素直な声をうまく拾い、親しみやすい雰囲気の動画に仕上がっています。
現在、これらの動画はYoutube(目白大学メディア学部メディア学科チャンネル)上で公開されており、目白大学のウェブサイト(【学生レポート】三上ゼミとアダチ版画研究所がコラボレーション、映像を制作)には制作した学生たちのコメントも掲載されています。
アダチ版画研究所の代表・中山周さんに、今回のプロジェクトについてうかがいました。
中山さん「いま私どもの工房では、20代、30代の若手の職人たちが、伝統木版の技術の修得に努めています。次代への伝統文化の継承の姿を発信するにあたり、彼らと同世代の若い人の感性を取り入れたいと思い、目白大学様にご相談しました。今回、動画を制作してくださった三上ゼミの皆さんは、いずれ大学を卒業され、さまざまなかたちで社会に向けて情報を発信し、活躍されていく方々だと思います。そうした学生さんたちに私どもの活動を知っていただく機会を持てたことは大変ありがたいことだと思っています。また学生さんたちから取材を受けることで、職人たちもフレッシュな刺激をいただきました。そして先生方のご指導あって、とても丁寧でわかりやすい動画を制作いただきました。ぜひ多くの方に観ていただきたいと思っております。」
ぜひ目白大学の学生さんたちの動画をご覧になってみてください。そして機会があれば、アダチ版画研究所の目白ショールームも訪れてみてくださいね。(※工房は通常非公開)
文・「北斎今昔」編集部
協力・目白大学メディア学部メディア学科
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