戦後日本美術の重要な動向である「もの派」を牽引してきた美術家、李禹煥(リ・ウファン)。2022年春には南仏・アルルに新たな李禹煥美術館をオープンし、夏には東京(国立新美術館)で、そして現在は神戸(兵庫県立美術館)で大規模な回顧展を開催し、改めてその活動が注目されています。
作家活動の初期から、版を用いた表現を繰り返し試みてきた李氏にとって、版画は単なる複製の技術ではなく、時間の経過や反復の中に生じる差異を可視化する重要な表現手段のひとつです。このたび伝統木版の技術を継承する職人たちとともに、近年発表している「Dialogue(対話)」シリーズを木版で制作しました。
木や紙といった素材との対話、つくり手同士の関係性が生み出した、新たな木版の表現をぜひお楽しみください。
作家コメント
「今回、僕の作品のこの色を出すのに、摺師の岸さんが二十度近く色を摺り重ねていると聞いて、びっくり仰天でした。でもなるほど、それだけの工程を経て出来上がる色の層は、優しくて静かだけれど、力強い。絵面(えづら)の存在感と言ったら良いのでしょうか。極めて薄く淡い色調で何度も摺り重ねる中で、そうしたものが立ち現れてくるんでしょうね。これを確認できたことは、僕にとっても改めて面白い経験でした。」
作家の呼吸をなぞるように
刃先に全神経を集中させる。
伝統的に版木に用いるのは
硬く、木目が通った山桜。
先人の智恵と新たな工夫で
あらゆる表現を可能に。
平滑な版木の上に刷毛で
絵具の濃淡の層をつくり出す。
水分を含んだ版木や和紙の
伸縮をも操る。
和紙の繊維の中に
絵具の粒子をきめ込む。
力強さと優しさを兼ね備えた
奥深いグラデーション。
人間国宝・岩野市兵衛が漉いた、
楮100%の手漉き和紙
(越前生漉奉書)を使用。
彫師は小刀一本で、堅い山桜の板の上に、あらゆる形態を彫り上げます。
極めて薄く研がれた刀の刃先から生み出される、シャープなエッジ。李禹煥氏の揺るぎない一筆が有する緊張感を、力強く版に刻みます。
日本の伝統木版は、摺師の技術によって絵具の粒子を和紙の繊維の中まできめ込み、透明感のある鮮やかな発色を可能とします。
淡い色調で二十度前後、丁寧に摺り重ねて生まれた、深く優しい色合いのグラデーション。素材の性質を最大限に引き出す職人の技術の結晶です。
撮影:稲葉真
1936年 韓国慶尚南道に生まれる。ソウル大学校美術大学入学後、1956年に来日。日本大学文学部で哲学を学ぶ。「もの派」を牽引した作家として広く知られている。1969年には論考「事物から存在へ」が美術出版社芸術評論に入選。近年の主な個展に、横浜美術館(日・2005年)、グッゲンハイム美術館(米・2011年)、ヴェルサイユ宮殿(仏・2014年)、ポンピドゥー・センター・メッス(仏・2019年)など。2010年に香川県直島町に安藤忠雄設計の李禹煥美術館が開館。主な著書に『出会いを求めて』(1971年)、『余白の芸術』(2000年)。
申込み期間:2023年2月3日(金)正午~2月6日(月)正午(日本時間)
※お一人様につき、抽選申込可能数は各図1点、当選可能数は3図の内1点となります。
2種類の申込方法(ショールーム・オンラインストア)の内、どちらか1つを選んでご応募ください。
複数お申込みの場合には、抽選対象外となりますのでご注意ください。