1979(昭和54)年、アダチ版画研究所は、伝統木版の技術を後世に伝えるためには過去の浮世絵を復刻するだけでなく、時代にあった「現代の浮世絵」を作ることも不可欠であると考え、「伝統木版と現代の絵師の出会い」をコンセプトに、オリジナル木版画集『木版と現代』を制作出版しました。近年力を入れている国内外で活躍する現代アーティストとのコラボレーション、そしてオリジナル木版画制作の礎となっているのが、この『木版と現代』です。
当時第一線で活躍されていた粟津潔·勝井三雄·田中一光·山藤章二·和田誠の5人のデザイナー·イラストレーターの方々がこの企画に賛同下さり、アダチ版画研究所の職人たちとオリジナル木版画を制作しました。このプロジェクトで完成した作品は、「木版&現代」展としてリッカー美術館(現・公益財団法人平木浮世絵財団)で紹介され、大きな注目を集めました。
半世紀以上にわたり日本のグラフィックデザイン界を牽引した勝井三雄氏とは、伝統木版の技術の限界に挑むような、極めて実験的な作品「鎖された形態Ⅱ」6図を制作しました。
提供:日本グラフィックデザイン協会
1931年東京生まれ。東京教育大学卒業。味の素広告制作室勤務を経て、61年に勝井デザイン事務所を設立。ポスターやサイン、エディトリアルデザインなど、グラフィックデザイン全般を手掛けた。また70年大阪万博、75年沖縄海洋博、85年つくば科学万博など、国際博覧会でADを歴任。日宣美賞、毎日産業デザイン賞、講談社出版文化賞、東京ADC会員賞、芸術選奨文部大臣賞、亀倉雄策賞やワルシャワなど各国の金賞やグランプリを受賞。JAGDA理事、東京ADC、AGI会員、武蔵野美術大学名誉教授。2019年逝去。
勝井三雄「鎖された形態Ⅱ」シリーズ 全6図 勝井氏は1977年にギャルリー・ワタリ(ワタリウム美術館の前身)で個展「鎖された形態」を開催し、その際に展覧会タイトルと同名の版画(シルクスクリーン)シリーズを発表しました。幾何学形態の中に、無限に広がる色相を見せる作品群は、DICカラーガイドの制作などに携わった勝井氏ならではの発想から生まれたアートピースです。
その続編となる本シリーズは、前作のコンセプトを引き継ぎながら、近未来的とも言える鮮やかな色彩から一転し、和紙と墨が生み出す黒の階調をストイックに魅せます。さらに本シリーズでは、和紙のやわらかな肌や、墨による漆のような光沢といった質感に対する勝井氏の強い関心もうかがえます。洗練を極めたデザインと、最高峰の職人技が見事に結実した作品です。
浮世絵研究家の故・山口桂三郎氏は本シリーズについて「イルミネーションの耀き」と「心にしみいる重厚さ」を感じると述べています。
収納帙(外寸):40.5×29.0×1.8 cm
額1点付き
価格 ¥198,000(税込)