江戸の天才浮世絵師・葛飾北斎(1760-1849)は、デザイナーとしての才能にも秀でていました。北斎が描いた着物の図案集『北斎模様画譜』は、北斎の死後、明治期にも刊行され、長く人々に親しまれました。
1986年、この『北斎模様画譜』の版木が、海を隔てた米国・ボストン美術館の収蔵庫の中で発見されました。これらの古版木は日本に里帰りし、伝統的な木版画の技術を受け継ぐアダチ版画研究所の職人たちによって再び摺られ、その作品は広く公開されました。
こうして初版から150年近い歳月を経て再び注目された「北斎模様」。この北斎の優れたデザインに共鳴し、アダチ版画研究所の職人たちと新たな「浮世絵」を生み出したのが、デザイナー・粟津潔氏でした。粟津氏は、北斎のモノクロの図案群を新たに再構成し、ポップな色彩の木版画の連作に仕立て上げました。
葛飾北斎と粟津潔という二人の優秀なデザイナーによる、世紀を越えた共演、「北斎模様・潔彩色図譜」全9図を、どうぞお楽しみください。
提供:粟津デザイン室
1929年東京都生まれ、2009年神奈川県川崎市にて逝去。独学で絵・デザインを学ぶ。1955年、ポスター作品《海を返せ》で日本宣伝美術会賞受賞。戦後日本のグラフィック・デザインをけん引し、さらに、デザイン、印刷技術によるイメージの複製と量産自体を表現として拡張していった。1960年、建築家らとのグループ「メタボリズム」に参加、1977年、サンパウロ・ビエンナーレに《グラフィズム三部作》を出品。1980年代以降は、象形文字やアメリカ先住民の岩絵調査を実施。イメージ、伝えること、ひいては生きとし生けるものの総体のなかで人間の存在を問い続けた。その表現活動の先見性とトータリティは、現在も大きな影響を与えている。
ボストン美術館で葛飾北斎の『北斎模様画譜(新形小紋帳)』の版木が発見された翌年に発表された、9図からなる木版画の連作です。北斎のデザインに対する深い敬意と理解を感じさせつつ、ビビッドな色彩の大胆な組み合わせ、遊び心あふれるモチーフの配置によって、木版画の特性を活かしながら、粟津氏独自の世界観を見事に創出しています。
なお、日本デザイン史における粟津氏の功績を早くから顕彰し、氏の広範な作家活動を紹介する大規模な回顧展を開催してきた金沢21世紀美術館(石川県)では、本シリーズ9図をコレクションとして収蔵しています。
収納帙(外寸):40.5×29.0×1.8 cm
価格 ¥275,000(税込)