北斎さんの富士山 〜復刻版で巡る「富嶽三十六景」〜 (7)【PR】
連載「北斎さんの富士山 〜復刻版で巡る「富嶽三十六景」〜」は、アダチ版画研究所が制作した復刻版で、北斎の「富嶽三十六景」全46図を毎週2図ずつご紹介する企画です。前回の記事はこちら≫
作品No.13 「五百らかん寺さざゐどう」
画面を二等分する地平線と画面の中心に位置する富士山。西洋絵画に影響を受けた北斎が、彼なりの遠近法を実践した作品です。そしてまたこの作品が、印象派の画家、クロード・モネの作品《サン・タドレスのテラス》の構図に影響を与えたとも言われています。
■ カクダイ北斎
手すりに寄りかかり、遠くの富士山を眺める人々。中央に立つ男性の真正面、ちょんまげ頭の向こうに、三角形の富士山が見えます。
■ ふじさんぽ
北斎がこの作品を描いた当時、五百羅漢寺は現在の東京都江東区大島三丁目にありました。(明治時代に目黒区に移転。)今回のふじさんぽスポットは「大島三丁目公園」です。かつての五百羅漢寺には、栄螺堂(さざえどう)の通称で親しまれた螺旋構造の三匝堂というお堂があり、最上階からの見晴らしが良く、江戸の名所となっていました。ただし他の絵師たちが描いた作品を見ると、こんなに広々とした回廊はなかったようなのですが……。北斎は広い沼地のような場所を見下ろす舞台のように描いていますね。
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作品No.45 「登戸浦」
潮干狩をする人々を描いた、春霞たなびく、のどかな海辺の風景です。一瞬、富士山を探してしまうのですが、鳥居の中に真っ白な三角の頭がのぞいています。
■ カクダイ北斎
籠いっぱいの収穫物に嬉しそうな人々。北斎は「千絵の海」というシリーズの「下総登戸」でも、似たようなポーズの人物を登場させています。
■ ふじさんぽ
登戸(のぶと)は、千葉県千葉市中央区の登戸のこと。この作品で最初に目が行くのは、海中に立つ大きな二つの鳥居です。岩波文庫の『北斎 富嶽三十六景』(日野原健司編)では、登戸から少し北西に進んだ稲毛区の稲毛浅間神社の鳥居が、かつて海中にあったことが指摘されています。(北斎の時代にその鳥居があったかは不明。)当時と現在とで海岸線の形もだいぶ変わっていますが、京葉線・千葉みなと駅〜稲毛海岸駅間の海辺の風景を、北斎は描いたのでは。今回のふじさんぽのスポットは、この辺りを見渡す展望室のある「千葉ポートタワー」とさせていただきました。
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editor's note:今回は、現存しない建造物を描いた2作をピックアップしました。五百羅漢寺の栄螺堂は、浮世絵も含め、いくつかの文献に記録が残されているのですが、登戸の鳥居については不明です。北斎の多少の誇張はあれ、海中にこのような大きな鳥居が立っていたのなら、もう少し記録が残っていそうなものなのですが……。ちなみに千葉ポートタワーのすぐそばには、千葉県立美術館があります。現在開催中の「魔法の手 ロッカクアヤコ作品展」の会場には、浮世絵の制作技術を受け継ぐアダチ版画研究所の職人たちの手によるロッカクアヤコさんの木版画作品も展示されています。展覧会は来月11日まで。
※ 葛飾北斎の「葛」の字は環境により表示が異なります。また「富嶽三十六景」の「富」は作中では「冨」が用いられていますが、本稿では常用漢字を採用しています。
文・「北斎今昔」編集部
提供・アダチ版画研究所
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