日本らしさを考える 太田記念美術館「ニッポンの浮世絵」レポート
日本屈指の浮世絵所蔵数を誇る、浮世絵専門の美術館・太田記念美術館(東京・原宿)では、2020年11月14日より、企画展「ニッポンの浮世絵」が行われています。今回の展示では、豊富なコレクションの中から約70点を、描かれた題材ごとに展示。富士山や桜、グルメにお風呂など、今でも「日本らしい」とされる題材を描いた浮世絵が大集合しています。「日本らしさ」とはなにかを、江戸時代の浮世絵から紐解く本展覧会をレポートします。
「富士山」に「桜」 変わらない日本人の心象風景を堪能
本来であれば、オリンピックでにぎわう今年7月に開催予定だった本展覧会。展覧会の冒頭では、普段の暮らしを改めて見つめ直す機会が増えている今だからこそ、「日本」の暮らしが詰まった浮世絵の中に見えてくる発見があるのではないか、という問いが投げかけられています。
展示ではまず「富士山」や「桜」といった、日本を代表する風景を描いた作品が登場。本展覧会のポスターにも使用されている歌川広重の「冨士三十六景 駿河薩タ之海上」をはじめとし、葛飾北斎や渓斎英泉など、人気絵師たちの作品が並びます。
「富士山」の章の展示作品では、江戸から見る富士の美しい眺望、信仰の対象としての富士が。また「桜」の章の展示作品では、お花見を楽しむ人々の姿や、はらはらと散りゆく桜の一瞬が切り取られています。大衆に広く親しまれたテーマだったからこそ、多くの絵師がさまざまな視点で描いています。
日本橋から富士山を眺めた2つの浮世絵。同じ場所を舞台にしていても、その描き方は全く異なります。そして、さらに面白いところは、これらの作者がいずれも溪斎英泉であるところ。英泉の画技の幅広さを感じてください!原宿の太田記念美術館で開催中の「ニッポンの浮世絵」展にて、2点とも展示中。 pic.twitter.com/KsTLXBB787
— 太田記念美術館 Ota Memorial Museum of Art (@ukiyoeota) November 15, 2020
太田記念美術館のtwitterでも、本展覧会にて展示されている作品について日々ツイートが更新されています。
自然の風景で絵師と職人の技巧を堪能
順路を進むと、雨、雪、風など、気候をテーマにした作品が続きます。場所や時代にかかわらず、いつの時代も人々の暮らしに密接している自然現象だからこそ、そのとらえ方は百人百様。
絵師たちが天候を表現するアイディアは時に斬新で、海外の画家たちにも影響を与えた作品も数多く存在します。そしてその絵師たちのアイディアを実現する、彫師や摺師の職人の高度な技術にも注目です。
鈴木春信の「雪中鷺」。舟の雪と白鷺のふんわりとしたボリューム感を出すために「きめ出し」というテクニックを使っています。絵具のついていない凹面の板木に紙を載せ、裏から強く押し込んで、絵柄を盛り上げる技法です。原宿の太田記念美術館で12/13まで開催の「ニッポンの浮世絵」展で展示中。 pic.twitter.com/Ba8GTHJAJH
— 太田記念美術館 Ota Memorial Museum of Art (@ukiyoeota) November 17, 2020
雪のこんもりとした立体感を表現する「きめ出し」。柔らかい和紙に摺るからこそできる、浮世絵版画ならではの表現は、ぜひ会場でお確かめください!
いつの時代も変わらぬ楽しみ!浮世絵に見る江戸の暮らし
さらに展示は「月」や「花火」など、人々が愛でて楽しんだ風景を経て、徐々に、人々の暮らしの風景に移り変わっていきます。「お風呂」や「グルメ」など、今でもずっと変わらない日本人の楽しみを描いた浮世絵が、題材ごとに紹介されています。
その中には、描かれた当時から150年以上経った今でも共感できる日常風景が盛りだくさん。特に筆者にとって印象的だったのが、「美人画」の紹介です。作品には、女性たちの服装やメイクのポイントも記載した解説が添えられていて、観劇前に気合を入れておしゃれをする様子など、思わず「あるある!」と頷いてしまいました。
鏡を見ながら髪を整えている女性たちを描いた、喜多川歌麿の「化粧二美人」。女性たちの目にご注目。頭を動かさないように、目だけ上の方を向いています。女性の細かな仕草や表情を捉えることを得意とした、歌麿らしい作品です。太田記念美術館で12/13まで開催の「ニッポンの浮世絵」展で展示中。 pic.twitter.com/A9jjEMiDyo
— 太田記念美術館 Ota Memorial Museum of Art (@ukiyoeota) November 19, 2020
こういった現代のシチュエーションにも共通する描写を見ると、なんだか江戸時代の生活が、ぐっと身近なものに感じます。
最後の展示室は地下一階。ここでは当時大勢の人たちが参拝に訪れた「寺社」に加え、「相撲」や歌舞伎の「役者」が展示されており、人々が暮らしの中で足を運んだ信仰の地、楽しみにしていた娯楽を紹介しています。
今、改めて見つめ直す 日本人の変わらない「楽しみ」や「美意識」
本展覧会を通してみると、私たちが心惹かれる風景や日常の暮らしの中にある楽しみは、江戸時代と、ほとんど変わらないように思います。疫病の流行や厳しい規制など、苦難の多い現実社会を生きながら、日本人は浮世絵の中に、「楽しい」「美しい」と感じるエッセンスを詰め込んできました。そこに反映された日本人の価値観や美意識が、浮世絵の「日本らしい」イメージにつながっているのではないでしょうか。
展覧会情報
会 期:2020年11月14日(土)~12月13日(日)
時 間:10:30〜17:30(入場は閉館30分前まで)
休館日:月曜日(11/23は開館)、11/24
会 場:太田記念美術館(東京都渋谷区神宮前1-10-10)
美術館公式サイト
関連書籍情報
今回の展覧会に先駆け、今秋、展覧会と同タイトルの浮世絵の入門書が小学館から刊行されました。本展の公式図録ともいうべき一冊ですが、本展出品作だけでなく、さらに太田記念美術館所蔵品を加えた、およそ180点の浮世絵を通じて「日本のイメージ」を深掘りした内容です。展覧会に足を運ぶのが難しい方は、ぜひこちらの書籍で「日本のイメージ」をお楽しみください。
[監 修]太田記念美術館
[著 者]日野原健司、渡邉晃
[出版社]小学館
[価 格]2,400円(税別)
[ISBN]978-4-0968-2334-7
[購入方法]全国の書店、Amazon(アマゾン)、楽天ブックス、ほか
文・渡邉葵(「北斎今昔」編集部)
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